• バルブメーカー意見交換会

NSCPではこの度、原子力発電所向けのバルブを製造するバルブメーカー6社による意見交換会、並びに福岡県にある岡野バルブ製造の工場見学会を実施しました。原子力業界での課題と課題解決に向けた取り組みを共有するとともに活発な議論が行われました。
※原子力発電所は、蒸気や流体をコントロールしながら運転されており、それらをコントロールするために様々な「バルブ」が用いられている。

意見交換会の様子

参加企業(50音順)

イーグル工業         

BWR向け主蒸気隔離弁(MSIV)、試験可能逆止弁(TCV)、PWR/BWR向け溶接ベローズ弁(BV)用ベローズAssy等を扱う。震災以降、原子力バルブ関連の売上が10分の1以下に落ち込む。120人ほどいた人員は、一桁代の人数まで減少。2023年以降に再稼働の動きがあり、メンテナンス部門は回復基調。部品や既存のリプレースといった案件も少しだが得られるようになってきている。

ウツエバルブ         

主に発電所向けのバルブを製造。原子力のほか、火力、水力、地熱等で実績。原子力は、震災後にバルブ製造・メンテナンスともに仕事量が激減。特重施設向けの需要が一時的にあるも続かず。BWR再稼働に伴う定検需要に期待。

岡野バルブ製造       

主にBWRプラント向けの高温高圧バルブや安全系のバルブを製造。震災後に、バルブ・バルブメンテナンス事業ともに売上が一時半分以下に。2022年以降は、メンテナンスの工事案件は女川2号と島根2号の起動前点検、バルブ案件でもシビアアクシデント(SA)対策、特重向けのバルブで回復基調。

TVE                     

主にPWRプラント向けの主蒸気隔離弁や主蒸気安全弁といった高温高圧バルブを製造。震災前は年に15~18件程度の定検工事の受注があったが、震災後に大きく落ち込み、売上は一時約3割減となる。その後、SA対策、特重施設向けのバルブ、さらに国内火力向けの案件を受注し売上を確保。PWRの再稼働が進んだ現在では、定期的に定検工事が入り売上のベースに。

中北製作所           

震災後に13ヶ月ごとの定期点検の消耗品、技術員派遣が半分以下に減少。一方で、特重施設向けのバルブ製品の納入を継続。再稼働後は、消耗品や技術員派遣、弁の取り替えが震災前と同程度まで回復。

ミヤワキ               

主力製品であるスチームトラップを原子力のほか、石油・化学プラント、食品メーカー等に供給。原子力に特化していないため、震災による会社全体の売上の影響はほぼない。原子力の案件自体は少ないが、過去に供給した製品の問合せといった突発的な依頼で原子力特有の要求事項への対応に苦慮。

 

バルブメーカー意見交換会目次
1  人材育成に関する取組み
2  人材育成に関する課題と取組み状況:(プラント再稼働に関して)
3  業界全体での人材育成について
4  原子力事業の特有の要求事項について
5  今後期待されること

 

1  人材育成に関する取組み
はじめに、各社における人材育成に関する取り組みについてお伺いしたいと思います。震災以降、原子力発電所の稼働停止、さらに新設案件の停滞といったことから、技術継承機会が不足しているといったことが考えられますが、各社における人材育成に関する課題と取り組み状況についても教えていただけますでしょうか?

イーグル
工業

シニア社員から若手社員に対して過去のトラブルといったことを講義して技術伝承を実施しています。今までは岡野バルブさんにあるような自前のメンテ訓練施設はなかったのですが、訓練施設を新たに今年度中に設けることを計画しています。バルブシート部の肉盛りの溶接を自社で行っていますが、その溶接を実施できる人材が熟練者1名しかいない状況です。次の人材育成を進めるとともに、人員の負担軽減のため溶接の自動化を検討しています。

 

ウツエ
バルブ

後期高齢者に該当する75歳以上の社員を本人の希望により継続雇用しています。仕事量が減少したこの時期だからこそ将来に備えた教育が必要と考え、ベテラン社員から若手への指導を実施しています。中には80歳以上の社員もおり、若手への技術継承に当たっています。

 

岡野バルブ

震災後は新設案件が無く、SA対策・特重施設向けバルブの偏った手配となっており、技術継承が課題です。技術に関してはできる限り図書化して文書による技術伝承を実施しています。メンテナンススキルに関しては、工場敷地内にある現地配管を模擬した研修センターでの育成を実施しています。

岡野バルブの技能研修センターでの研修風景

TVE

PWRでは、泊3号が最後の新設の案件で、社内に新設を経験した人材が少なくなっています。今後新設案件があった際には立会検査といった原子力特有の要求事項への対応に苦労することが予想されます。ベテランの技術を継承するために動画撮影することや、知識や経験に偏りがないように火力の案件にも携わらせるといったことを行っています。
原子力と火力では工程や特殊なルールなどで違いがありますが、基本的なバルブの構造は同じですので、火力の案件で経験を積み、原子力にも生かせるようにしています。

 

中北製作所

新設案件がないため、プラントの計画、建設、設計、運転という一連の業務を経験した者がおらず、そういった体験談を社内で共有できていないことが課題です。メンテナンスやリプレースの手配業務で原子力特有の要求事項を勉強するようにしています。最近ではSAや特重施設の案件があり、若手社員をベテラン・中堅の社員とともにそういった案件に関与させて原子力の知見を高めるようにしています。

 

ミヤワキ

継続的な原子力向けの製品生産がないため教育の機会はない状況ですが、一部の文書を電子化し、検索しやすいよう保管するといったことを行っています。


2  人材育成に関する課題と取組み状況:(プラント再稼働に関して)
BWRは震災以降、稼働するプラントがない状態が長く続きましたが、2024年11月に女川2号機が再稼働を果たしました。長らくメンテナンス需要が乏しかったこともあり、メンテナンス関連の人材確保が困難なことが予想されます。メンテナンス人員の状況について教えてください。

イーグル
工業

震災以降、人材の新規採用は行わなかったため、人材は自然に減っていった状況です。再稼働の見通しがたってきたため人材を補充しようとしていますが、メンテ作業が体力的に厳しい仕事であること、放射線被ばくがあること、長期出張があるといったことから若手人材に敬遠されています。最低限の人材は確保できていますが、今後はどうなるかわからない状況です。メンテ技術の習得には時間がかかり、さらに経験の場も少ないといった課題があります。

 

岡野バルブ

人材確保・育成のため、年間教育訓練計画を立て、個人の能力を上げる取り組みを継続的に実施しています。求人は行っていますが、若手がなかなか入ってきません。原子力に対する懸念があるのかもしれないです。今いる人材で回していくことはできますが、それだけでは事業継続ができないので、今後は若手の人材を増員していく計画としています。

事務局:
女川2号と島根2号の再稼働は同じようなタイミングとなりましたが、2プラントでの起動対応に係る人員の確保は問題なく実施できましたでしょうか?

イーグル
工業

2プラントのタイミングが少しだけずれたため、何とか対応できました。綱渡りのような状況でした。

 

岡野バルブ

女川と島根の再稼働については、それぞれ担当事業所の人材で確保することができました。しかし、今後BWRの再稼働が進み、13ヶ月後の定期検査の対応が増えると、火力との兼ね合いで人材が不足するかもしれないという懸念はあります。特に工事責任者・作業班長といった棒芯クラスの人材確保が必要です。

 

事務局:
PWRでの再稼働を多く経験してこられたTVEさんではどうでしょうか?

TVE

再稼働後の13ヶ月後の定検について、それぞれの定検がラップしないかどうかが懸念となっています。山が立つと人材をうまく回すようにしています。責任者は兼任できないため、そこは調整しないといけません。定検が被らないように運頼みの部分もあるのが現状です。人によって被ばく線量が偏ることも課題となっています。メンテナンスの工事をいただけるのは有難いですが、そういった被ばく線量の観点も加味してもらえると助かります。

 

岡野バルブ

岡野バルブでは3ヶ月に1回の頻度で工程会議をやっており、各プラントの定検が被るときなどに調整を行うといったことをしていますが、そういった工程会議はTVEさんでも行っているでしょうか?

 

TVE

メンテナンスに関する工程会議を月一回、全国の所長全員でやっています。拠点ごとで人材を共有するといったことは行っていませんが、工事単位のボリューム感の情報共有を行っています。最近であれば北海道の泊の案件の話が入ってきており、既に再稼働している既存の定検の間で調整できないかといった話をしています。

事務局:
中北製作所さんでは火力と原子力で技術員の取り合いになっていて不足しているということがあるとお聞きしましたがいかがでしょうか。

中北製作所

当社においても人材は限られているため、なるべく火力と原子力の両方をバランスよく教育して対応しています。電力需要の低い春と秋に火力の定検が集中するため、そういった時期は協力会社も含めて全国から人材を集めて対応しています。どうしても単価の高い案件に人材が取られてしまって、こちらまで人材が回ってこないということもあります。

事務局:
ウツエバルブさんでは、メンテナンス人材の確保をどのように行っていますか。

ウツエ
バルブ

メンテナンスの人数には限りがあり、やり繰りは大変な状況です。
手が足りないときは兄弟会社のウツエバルブサービスにお願いしてメンテナンス対応をすることもあります。


3  業界全体での人材育成について
今後の原子力業界全体での人材育成を推進するにあたって、新たに期待する内容、取り組みを強化すべきと考える内容がありましたら教えてください。

イーグル
工業

「メンテナンス作業の情報交換会」を定期的に開催できればと考えています。イーグル工業では、震災前はメンテナンスのサービス会社があり、各地に拠点がありましたが、震災後にイーグル工業の内部に吸収する形で閉鎖しました。メンテナンスに関して、例えばこういった工具を使っているといった、各社の情報を腹割って共有できれば勉強になると思います。TVEさんの講習会も参加しましたが、とても勉強になりました。その「メンテナンス版」があればいいと考えています。

 

TVE

各社でのメンテナンスの業態が全然違うというのを考慮していく必要があると考えています。例えばメンテナンス事業の教育を自社で実施しているか否か。BWRとPWRでそこまで環境が異なるということはないと思いますが、例えば足場から全部作るのか、保温材を全てはがすのか、といったことが異なる部分があると思います。

 

岡野バルブ

同じ業界でメンテナンスに関する失敗談や成功事例を共有できれば、いい方向に向かっていくのではと思います。

 

ウツエ
バルブ

協力会社のメンテ人員も限りがあります。自社の中で実施したことしか知らないため、過去の問題点に対してどのように対処したかという経験を共有できる場があればいいなと思います。

 

中北製作所

現場でバルブのメンテナンスを実施した際に判明した問題に対してどのように対処していったかということを共有できる交流会ができると嬉しいです。バルブの故障について原因がわからない場合、本来は持って帰って調べたいが、それはできず難しいので、各社の経験を共有できるといいと思います。


4  原子力事業の特有の要求事項について
原子力特有の要求事項が各社での負担になっているという声をよくお聞きします。実体験として苦労していることや、改善を希望する項目、工夫して対応されていることがありましたら教えていただけますでしょうか?

(1) 文書の保管・管理

イーグル
工業

文書の保管・管理に関して、「解体後10年間」の保管要求があるため、例えば福島第一原子力発電所(1F)の品質記録文書の廃棄ができない状況です。1F関連の図書だけでもかなりのボリュームがあるため保管する場所に苦労しています。
電子化するにしても量が多く、それも大変です。既に廃炉が決まっていれば、全て廃棄してもいいといったようにしてもらえると負担軽減になります。

 

TVE

解体までの「永久保管」が求められている文書について、昔に建設したものについては電子化する余力がなく、他の企業と同様に倉庫にある状態です。一部電子化しているものもありますが、過去の膨大な量の図書を全て電子化するのも労力がかかるため、すべては実施できていません。過去の書類の提出を求められることが多いため、今後も保管を継続することになると思います。

 

岡野バルブ

今はプラントメーカーさんとの図書のやりとりはほぼ電子化されました。ただし、昔の紙の図書を全部電子化できているというわけではありません。電子化するにも手間がかかるため、紙のまま倉庫に保管されているものがあるのが現状です。

 

(2) 発電所の入退域手続き

イーグル
工業

発電所の入退域手続きに際しては、「個人の信頼性確認」の書類準備が負担となっています。紙の証明書の提出が求められており、マイナンバーカード等を活用できると助かります。また、電力会社ごとに対応が異なるためそこを共通化できると助かります。例えば、女川で信頼性確認を実施したのに、島根に入域しようとすると再度実施しなければいけません。マイナンバーカード一枚でどこのプラントでも入退域できるというのが理想です。

 

TVE

PWRとBWRで必要書類が異なっていることがあります。また、他プラントで入退域を実施したという照会を経て手続きをする場合、PWR同士、BWR同士の紹介であれば早く済みますが、PWRとBWRの間では時間がかかってしまいます。例えばBWRで作業した人員(初登録)がPWRで入域(照会)しようとすると、なぜか4週間くらいかかってしまうことがあり、こういうところをうまく実施できるようになれば、皆さん助かるのではないかと思います。

 

岡野バルブ

TVEさんが言う通り、PWRとBWRの間では信頼性確認の手続きに時間がかかります。そこが改善されると助かります。

 

(3) 立会検査

イーグル
工業

立会検査の回数が多いため、日程調整が大変で、ホールドポイントが多く生じてしまいます。電力会社やプラントメーカー、社内と多くの関係者の調整が必要となります。電力会社間で事前申請の時期にずれがあることもあり、そういった項目が共通化できると助かります。

 

ミヤワキ

プラントメーカーの品証監査がありますが、プラントメーカーごとで個々の項目で違う部分があるので、そういった部分を共通化できると助かります。

 

(4) 緊急の対応

TVE

至急の問合せや様々なケースの可能性に備えた待機要請といったものがありますが、働き方改革や人材確保の観点からより適正な期日や費用の負担の配慮をいただけると非常に助かります。対応はしますが、徹夜でなんとかするような時代でもなくなっているため、時間的猶予をいただきたいです。

 

岡野バルブ

岡野バルブでもTVEさん同様にそういった要望があることがあります。再稼働対応の際の緊急性があることもありますが、それ以外の急を要さないと思われる場合は猶予がほしいところです。


5  今後期待されること
最後に原子力サプライチェーンの維持・強化に向けて、今後期待されることをお伺いしようと思います。

ミヤワキ

当社での原子力案件の件数は少ないのですが、急に依頼があり、そこから製作ということになります。前もってメンテナンスの周期や手配予定を周知してもらえれば、計画も立てやすくなるので、ユーザー側とのコミュニケーションの機会を作っていただけると良いと思います。

 

中北製作所

今後、新設やリプレースについて具体的な方針が示されると人材や設備に対して投資が行いやすくなるかと思います。

 

TVE

若い世代がこの業界で働けるように「原子力の未来は明るい」というようなポジティブな発信があると業界全体に人が集まると思うので、そういった取り組みがあると良いと思います。

 

ウツエ
バルブ

当社では今後の設備投資を計画しています。原子力産業基盤の維持・強化のため継続的な支援を期待しています。

 

イーグル
工業

原子力発電所周辺で従来使っていた宿泊施設が廃業していることもあり、宿泊施設の誘致や整備といったことにも目が向けられるとありがたいです。また、外注していた企業が撤退し、代替業者の確保が必要となり、代替業者選定に対する支援をいただけると助かります。

 

岡野バルブ

再稼働・新設炉の促進、開発支援等の対象範囲拡大といったことを期待したいです。
原子力事業が今後伸びていくという明るい未来を示すことができれば、人材育成や会社の利益にも結びつくと考えています。原子力に対する不安のイメージを払拭してほしいです。

 

岡野バルブ工場での鋳造現場の様子