- NSCP女性座談会
令和5年2月閣議決定の「原子力利用に関する基本的考え方」では、「人材育成において多様性を意識し、若い世代や女性の比率を高め、人材の文理融合を強化したりすることで、原子力利用のための基盤強化を推進する」という記載があります。
日本は世界でも有数の原子力サプライチェーンを構築しており、その多様性や魅力を広く発信することを目的に「NSCP座談会プロジェクト」を立ち上げました。今回その第一弾として、原子力サプライチェーンの各分野でご活躍されている女性たちにお集まりいただき、お話を伺いました。
参加メンバー
堀さん(大成建設株式会社)
地震工学系の建築専攻出身。学生時代には震源モデルや地盤の挙動などを研究。就職活動で原子力に興味を持ち就職。主にPWRの原子炉建屋評価等を担当。
馬場さん(岡野バルブ製造株式会社)
文系法学部出身。会社は主にBWRに安全系のバルブを供給。設計検査の内容検討を経験し、現在は品質保証。ISO9001の維持活動などを担当。
松永さん(横河電機株式会社)
ロシア語専攻出身。会社としては原子力発電所における現場機器や制御装置等を取り扱っている。マーケティング部に所属し、海外拡大戦略の検討と策定を担う。NSCPの海外オケージョンにも参加。
大久保さん(日本製鋼所M&E株式会社)
学生時代は材料工学専攻、金属工学について学んでいた。原子力関係だとBWR・PWRの原子炉の部材、タービンローター、原子力以外では火力発電所系の部材などの製造に携わっている。
吉田さん(事務局)
NSCP運営事務局(日本エヌ・ユー・エス株式会社)。この会の司会を務める。
NSCP座談会目次
1 どうして原子力サプライヤに?
2 原子力サプライヤならでは?
3 原子力サプライヤのおもしろみとは?
4 人材&技術伝承は大丈夫?
5 取り組みや働き方は?
6 原子力サプライチェーン強化の取り組みって?
1 どうして原子力サプライヤに?
はじめに、現在の業務につくまでの変遷をお伺いしてもよろしいですか?
鉄鋼材料っていうのは非常に面白い材料だな、と思って鉄鋼系を志しました。
弊社が原子力製品を作っていることは知っていましたが、特にそれが決め手ではありませんでした。入社後は研究所に所属し、材料開発や基礎研究、工場での製造支援を経験し、現在は熱処理課に所属しています。
私は建築系を専攻していて、地震工学や地震動の評価などに携わる仕事に興味がありました。原子力を志望した理由は、自分が研究した内容が活かせると思ったからです。最初の2年間は構造設計で耐震改修などに関わり、3年目以降は現在の部署で原子力サイトの地震動作成、原子炉建屋・関連施設の耐震安全評価などを担当しています。
学生時代は法学部で刑法を専攻していました。就活の際は、専攻はあまり意識しておらず、何かものを作り上げる会社に入りたいと思っていました。弊社は非常にニッチなものづくりをしており、突き詰めたものづくりができることに魅力を感じて入社しました。最初は製品の検査内容の検討業務を担当していましたが、現在は品質保証や各種規格の対応業務などを行っています。
私は大学でロシア語を専攻していました。就職活動の際、ロシア語を活かせる会社がいいなと考え、横河電機がちょうどサハリンプロジェクトを実施していたため、入社しました。最初の所属は海外法務でしたが、プロジェクト全体の理解が不十分であると感じ、現場に近い営業に修行に出させてもらいました。営業では最初は海外拠点の火力発電所向け製品販売ビジネスのサポートをしていましたが、現在では海外原子力施設向け製品の販売審査も担当するようになりました。
2 原子力サプライヤならでは?
業務をする中でこれは原子力産業特有だなと感じる場面はありますか?
製造条件がきっちり決められているのは原子力製品特有かもしれません。原子力に限らずですが、弊社で扱っている製品は非常に物が大きくて、迫力があるという点は面白いです。温度もすごく高くて真っ赤に焼けている部品が普通に工場内によくあるので迫力がありますね。
バルブに関して言えば、火力発電用途のものよりも原子力発電向けのものは規格体系も段違いに難しいのですが、そこが逆に面白いと思っています。また、原子力分野は「原子力安全文化」の醸成を大事にしていて、「ちゃんとするところはちゃんとしよう」というのが業界としても大事にされていると感じますし、それは原子力特有なのかなと思っています。
馬場さんがおっしゃったように、かなり細かいところまで品質上のチェックを行っていて、そういう面できっちりしているというのは感じますね。安全に対して細かい所まで向き合うことは大変な反面、原子力の面白さなのではと思います。
他分野と原子力の違いに関しては、安全系・非安全系の区分けがしっかりとしていて、そこに審査の厳しさがあるなという実感を持っています。社内の販売承認までのプロセスが大変な反面、どういうところに自分たちの製品が使われているのかというのがちゃんと見える形になっている点が面白いと思います。
原子力産業特有の業務や製品について、それぞれのお話をお聞きしました。特に安全への取り組みや品質管理の細かさが原子力分野の魅力の一つとして挙げられましたね。関連して、原子力産業で働いていてこれは面白いと感じることがあればぜひお聞きしたいと思います。
3 原子力サプライヤのおもしろみとは?
原子力関連の仕事をしていて面白みを感じるなと思う部分はありますか?
一品ごとにものを造っていくという点は面白いです。大量生産ではなく、それぞれの製品を丁寧に作り上げることができるのが魅力だと思います。
一品一様の製品をそれぞれ作っていくというのが面白いです。また、弊社だと原子力発電所向けの製品に○Aと書いて表示しています。これは原子力発電所向けとわかる状態で自分たちでも意識して作るっていうのは、やっぱりプライドじゃないですけど、そういう意識は特に現場の方はすごく意識して作業されているんじゃないかなと思います。
弊社では海外の拠点の方々を集めて会議を開催し、各国のプロジェクトなどを紹介し合っています。最近では、SMRビジネスについて話し合ったりしています。そういった場では、国ごとに事情は異なる中でそれぞれの国がどのような戦略を立てているのかを聞くことができて面白いなと思います。
原子力発電所の設計では、例えば、建設サイト周辺で断層がどう位置しているのかということを調査するといったように建設サイトに影響を及ぼす可能性のある地震動について適切に評価することから始まります。原子力施設の安全性を保つために自分の工学的な知識を活かせる点を面白いと感じています。
ありがとうございます。丁寧な製品作りや自身の知識や技術が活かせるという点が印象的でした。つづいて、昨今原子力サプライチェーンに限らず人材不足が叫ばれますが、人材の確保や技術伝承について感じていることをお聞きしたいと思います。
4 人材&技術伝承は大丈夫?
人材確保や技術継承についてはなにか感じているところはありますか?
弊社では品証部門に多くの人材を集めていますが、人員の補充ペースに教育が追いついていないという課題があるかもしれません。原子力は難しい分野であり、世の中の風向きが変わると一気に掲げる目標も変わってくるということもあるのではないかと思います。日本では新設の動きがまだ見られないため、具体的な話が進むと人材も集まるかもしれませんね。
BWRの再稼働に関する話題が出ていますが、メンテナンスに関わる人材が高齢化し、現地の協力会社も減少しています。私自身も震災後に入社したため、再稼働後のメンテナンス対応がどのような状況になるのかわかりません。
私も震災後に入社したので、新設時の設計部門の状況については知りません。将来的に原子力発電所を新設するとなった場合、どれだけ設計が大変な状況になるのか想像がつかないです。若手社員はコンスタントに入ってきていますが、ある程度経験を積んだ指導役・中間層が少ない印象です。弊社の場合、原子炉建屋本体の新設案件は泊3号以来ない状況が続いているので、技術継承の面でも実際の新設プロジェクトが見えてくると良いとは思います。
所属部署では、最年長がまだシニアではないので徐々に先輩方の知見を受け継いでいこうと思っています。電気計装という面では国内新設がない中でも技術継承が急務のため、後継者を立てるなどの対策を練っています。
人材確保や技術継承について、やはり課題があるということを皆さん感じているということでしたね。特に新設プロジェクトが進まない現状や、メンテナンス部門の人材の高齢化など、将来の人材不足や技術の継承に対する懸念を共通で認識されているように感じました。具体的に職場での取り組みや実際の皆さんの働き方についても聞かせてください。
5 取り組みや働き方は?
職場での課題や取り組み、実際の働き方はどうですか?
人手が多いとは言えない状況で、やはり紙の記録が多いというのが難しいところです。DXを推し進めてできるだけ人手をかけず、属人化している業務を減らして品質を保っていかないと立ち行かなくなるという危機感が社内にあります。社内では今年中に実施するということを掲げて切迫感を持って対応しています。ベテランのノウハウもできるだけ資料に落として、IT化を進めたいと考えています。
やはり現場の人がいないと物が作れない会社なので、いかに現場の作業を楽にしていくかという取り組みをしています。現場の方に作業内容を聞き取りして、意見を交換しながら改善を進めています。最近だと3D測定器を導入しました。原子力は複雑な形状の品目が多いので、形を測って、機械で削るという作業に熟練度が求められます。3D測定器の導入により時間短縮と精度向上が実現し、効率化につながっています。
紙面でのダブルチェック作業が必須だったり、紙ベースの文書管理だったりと「ペーパーレス化」が課題となっています。一部の顧客では電子印を容認している場合もあり、そのような取り組みが加速すると良いなと思っています。働き方としては、社内制度として子育てや介護をしている人はフレックス制で働くことができます。また、子育てや介護に限らず週2回までテレワークが可能です。
弊社はフレックス制・フリーアドレス制を導入していて、テレワークもありますが原則は出社しています。フレックスのため、朝でも夜でも勤務時間を自由に選択できます。自身は、米国との会議があることもあり、出社の際には7:30始業、在宅の際は6:30始業で働いています。
職場の課題や取り組み、働き方について興味深いお話を伺いました。紙の記録のデジタル化や作業効率化の取り組み、柔軟な働き方の導入など、現場の改善や働きやすさに対する取り組みが行われていることがよくわかりました。最後に、本座談会の事務局であるNSCP(原子力サプライチェーンプラットフォーム)で行っている取り組みについてご意見頂ければと思います。
6 原子力サプライチェーン強化の取り組みって?
NSCPの活動や原子力サプライチェーン強化に向けた取り組みついて、皆さんはどう思いますか?
スキル標準の取り組みはとても良いと思います。スキルを持ったら何に活かせるのかが明確になることで、人材も流動的になるのではないかと思います。社内でも、一般設計に携わる人から、原子力設計というと何か特別なことをしているというイメージを持たれることがあるのですが、実は一般設計と根本は同じなんですよね。スキル化することで、そういったこともわかりやすいのではと思います。また、ライフステージによって現場を離れていった方が現場に復帰したいと思った時にも、スキルが標準化されていることで復帰しやすくなるというのは大きな強みになると思います。
このレベルだとこれぐらいのことが出来て、レベルが上がれば、だんだんできることが増えていく、といったようなことが数値化されて標準化されることは非常に良いなと思います。弊社でも力量評価の取り組みはありますが、ここまで解像度は高くないので、より具体的な数値化をしていくことは良いことだと思います。
確かに個人のレベルが見えると、こんなことしたいといった要望も上の人に共有がしやすくなると思いますね。ものづくり講座についても、たぶん各社さんノウハウが全然違うので一概には難しいと思いますが、教育ツールとして使えるものがあるのはありがたいです。社員のスキルアップや意識向上させるようなものを社内展開したいといつも思っていますが、カリキュラムなどを1企業として作り上げるのは大変でもあるので、NSCPの取り組みとして原子力サプライチェーン向けに提供されるものがあると大変助かります。
私はNSCPのメルマガを拝読していますが、海外企業が配信している類似の情報と違って、NSCPの目でサプライチェーンにとって注目度が高いという情報を配信してくれているのがありがたく思っています。そういった情報は会社内への情報発信にも活用させていただいています。また、自分から各社へ話に行くという機会もなかなかなかったりするので、他の会社で今、原子力ビジネスへの取り組みがどういう状況なのか気になる面がこれまでありました。NSCPの海外オケージョンや海外規格のセミナーなどの取り組みを通して企業間の交流が促進されることはとてもありがたいことだと思っています。
NSCPの取り組みについてご意見ありがとうございました。スキル標準化や情報配信、海外オケージョンのような取り組みを含め、より一層原子力サプライチェーン強化の取り組みを拡充していきたいと思います。
本日は参加者の皆さんから様々なご意見やお話を伺うことができ大変有意義な場となりました。再度参加いただいた皆さんに深く感謝申し上げます。本日はありがとうございました。