• NSCP電力事業者座談会

日本は世界でも有数の原子力サプライチェーンを構築しており、その多様性や魅力を広く発信することを目的に「NSCP座談会プロジェクト」を立ち上げました。今回はその第二弾として、電力事業者として業務の中で原子力サプライチェーンと関わりを持たれている方々にお集まりいただき、電力事業者目線での原子力サプライチェーンに対する問題認識・課題認識、取り組みなどについてお話を伺いました。

左から平原さん(九州電力)、樂山さん(東京電力)、吉川さん(東北電力)
志和屋さん(関西電力)、西垣さん(事務局)

参加メンバー
平原さん(九州電力株式会社)

原子力工学専攻出身。九州電力に入社して玄海原子力発電所に配属され運転業務を経験。間もなく震災が発生し、本店に異動して新規制基準対応として主に耐震評価を担当し、機器や工事の調達業務も経験。その後、発電所の保修業務、秘書室での勤務を経て、現在は設備関係のグループに勤務。

 

樂山さん(東京電力ホールディングス株式会社)

高校卒業後(震災後)、東京電力に入社。入社後は柏崎刈羽原子力発電所で保全部員として勤務。発電所勤務時に新規制基準対応の機器及び長期停止中の点検修理工事の調達などを担当。その後、本店資材部門に異動し、契約業務や業務改革に従事。現在は原子力分野を離れ、水素事業の立ち上げ業務を担当。

 

吉川さん(東北電力株式会社)

機械知能工学専攻出身。東北電力に入社して東通原子力発電所(入社時は建設所)に配属。東通1号機の建設工事、運転開始後は機械保修を担当。震災後は、本店にて新規制基準対応の新設設備の設計を担当し、発電所では工事管理も担当。その後、本店にて女川2号機の工事計画の審査対応などを経て、現在は工事計画の部門とりまとめや製造中止品対策などを担当。

 

志和屋さん(関西電力株式会社)

機械・生産技術分野の専攻出身。関西電力に入社して美浜原子力発電所に配属。運転や保修業務を経験し工認対応も経験。震災後は、事業本部にて耐震・強度関係の機械設計を担当し、発電所では高浜1、2号機の安全対策工事やプラント再稼働などを担当。現在は事業本部にて設備保全全般のとりまとめ業務に従事。

 

西垣さん(事務局)

NSCP運営事務局(日本エヌ・ユー・エス株式会社)。この会の司会を務める。

 

NSCP座談会目次
1  原子力サプライヤとの関わり
2  原子力サプライチェーンに対する問題意識
3  サプライチェーン維持強化の取り組み
4  国内サプライヤからの声に対して
5  供給途絶対策について
6  今後必要な取り組み
7  今後の新増設について


1  原子力サプライヤとの関わり

 

西垣さん

はじめに、これまでの業務を通じたサプライヤさんとの関わりについて具体的にお伺いできればと思います。

 

吉川さん

最初に配属された東通原子力発電所建設所での勤務時に、プラントメーカーのみならず、弁や機器メーカーの工場といった「ものづくり」の最前線に出向き、工場出荷前の立会検査を数多く経験しました。
震災後の女川2号機の新規制基準対応では、その当時国内になかった「フィルタベント」を担当したのですが、他のBWR事業者さんやプラントメーカーさんと一緒に欧州の発電所やメーカーの工場に訪問したり、プラントメーカー・海外メーカー・当社の3地点でテレビ会議を繋いで設計の情報交換をしたりもしました。こうしたことを通じて「ものづくり」に繋がっていったのはユニークな経験でした。
また、女川2号機の再稼働工事の現場では、機械関連の工事を担当し、特に長い配管の調整が非常に大変だったのですが、施工会社さんやプラントメーカーさんと一緒に、現場での配置調整を経験しました。

 

志和屋さん

発電所の定期検査ではたくさんの機器の点検や工事をしますので、その際に、請負会社さんや協力会社さんを通して、点検・工事等に必要な部品や消耗品をサプライヤさんから供給いただくとともに、多くの職人の方々にもその作業を実施いただいています。現場だけでなく設計部署の方々も含めて、様々な断面で、発電所設備に関する技術的なサポートをしていただいていると思っています。
サプライヤさんとの交流については、やはり事業者としては元請のメーカー・協力会社さんを通した形にはなりますが、たくさんの企業からの支援のもとで運営ができていると感じています。

 

樂山さん

本社調達部の契約部門に異動してきてそこで話題になっていたのは、職人さんの確保・人材育成でした。東京電力では、地元で働いている人々の力量を把握してそれをどのように維持するか試行してきました。柏崎刈羽原子力発電所では1~7号機でシェアを分担していた部分もありましたが、力量を把握しながらその見直しをしたり、職人さんたちに継続的に力量を向上してもらう機会の創出をしたり、直近ではそういったところに個人的に力を入れてきました。その点では、サプライヤさんと交流もできていたかなと思っています。
東京電力でも請負が多重構造になっているため、職人さんの企業さんと接点をもつことは難しかったです。そのため、まずは元請・一次請けの企業さんにも説明をしつつ、その上で二次請け企業さんとの間で直接契約をしながら、交流を図ってきました。当社の保全の関係者も交えて、そういった企業さんたちと力量維持を進められたことがとても大きな経験であり、またこの取り組みに同意いただけた元請・一次請けの企業さんにこの場を借りて感謝したいです。

 

平原さん

先ほどもあったとおりで、立会検査などの機会でサプライヤさんのところに訪問して、品質保証上のチェックをするという機会は多かったです。
現場では、やはりプラントメーカーさんの一次請けになっているサプライヤさんたちは一番詳しかったですね。コミュニケーションが難しいことがなかったわけではないですが、新しい設備を設置する場合等は、作業内容ひとつひとつを紐解きながら一緒にやってきた記憶があります。
また、仕事以外の機会としては、学協会の場でお会いしたりすると、なかなか現場では聞けないような話ができたりもします。我々事業者に対して熱い思いを持ってらっしゃる人とお会いすることもあります。

 

2  原子力サプライチェーンに対する問題意識

 

西垣さん

原子力サプライチェーンに対する問題意識についてお伺いしたいと思います。業務を行う中での原子力サプライチェーンに対する懸念や、サプライヤさんと交流する中で感じる問題点や潜在的なリスクとしてどういうものがあるかお伺いできればと思います。

 

樂山さん

“ひと”と“もの”に分けて考えてみると、
“ひと”については、やはり技術継承の不足かと思います。これについては、なかなか継承しづらい環境を我々事業者が作ってしまった側面もあろうかと思います。
“もの”については、長期化という点で、我々から計画をしっかり共有していなかった部分もあり、もう少し細かい部分まで共有できるスキームを作っていかなきゃいけないのではないかと思っています。

 

志和屋さん

樂山さんからも言及がありました技術継承に関しては、高齢化も進んでおり、若い人が入っていないということがまずありますね。震災で発電所が停止し、工事もなかなか発生しない中で、技術伝承や若手の人材確保が難しい状況が継続していると思います。
“もの”のお話もありましたが、長期化だけではなく、やはり製造中止となった部品が多く発生していると感じます。昔に比べて増えており、PWR電力などで定期的に集まり、メーカーも交えて議論をしていますが、その議題の中心は製造中止品対応になってきているような状況です。

 

吉川さん

今挙がった製造中止品についてですが、BWRでも集まって話し合いはしています。やはりポンプのような大型機器もそうなのですが、Oリングのような部品単位でもそういった情報がありますね。その情報に接してから対症療法的に動かざるを得ないので、予防的に動く必要性を感じています。

 

平原さん

“もの”について、稼働プラントが少ない現状の中で、消耗品や先ほど出たOリングなど、こちらから発注しようとした場合に、サプライヤさんからするともっと利益の出る製品があるのにわざわざ…というところがあると感じています。例えば特注で作るエアロックのOリングなどがそうですね。そうなると、どうしても後回しにされてしまうところは懸念点としてありますし、我々としても辛いところです。

 

西垣さん

このトピックに関連して、国産化の意義や海外依存リスクへの懸念などについても意見があればお伺いしたいのですがいかがでしょうか。

 

平原さん

九州電力では、川内原子力発電所は運転開始から40年が経過していまして、例えば当初から設置されている海外製の弁について、そもそもその海外メーカーがものを作っていないということもあります。その場合、国内の弁メーカーさんに何とか対処をしていただいていますが、さすがに国産のものに切り替えようか、ということはあります。
国産品については、消耗品などの対応や、万が一トラブルが発生した場合を想定してもスピード感が全然違います。一方で、コスト面に関しては、物価が上昇し続けているのもありますが、少々高いのかなと感じることもあります。電力事業者としてはどうしてもコストを下げなければならないという意識が強く働いてしまい、その点でサプライヤさんとの認識が乖離してしまっている部分はあると思います。

 

志和屋さん

PWR電力では、これまでも、製造時期の古いプラントで採用していた海外製の弁について、メンテナンス性の面で、部品が長納期であることや壊れたときの十分なサポートを期待できない、という悩みに対し、最新プラントで使用実績のある国産の弁に取り換えるなどの対応を行っています。最近では、重要な安全系ポンプの国産化の検討も進めているところです。
国内企業であれば我々の情報も伝えやすいですし、やはり必要な情報をすぐ教えてもらえるといったアフターサービスについても期待し採用しているので、必要な費用は致し方ないとも考えているところです。

 

西垣さん

海外製品を使っていて困ったことなどエピソードがあれば教えてください。

 

平原さん

新規制基準の審査対応で困ることはありました。国内メーカーなら、商業機密箇所はその考え方を説明することで対応できるのですけど、海外製品の場合は特許に係る部分がブラックボックスになっていてほしい情報を全然もらえないとか…。あとは、海外の場合は自分たちのビジネスのペースがあって、こちらが急いでいてもそれに合わせてもらえなかったりしたのは困りました。

 

志和屋さん

設備トラブルの対応でも同じような状況はあり、海外メーカーの場合、原因特定のための情報整理の過程で、ほしい情報が入手しにくいというのもあります。一方で、国内メーカーなら、ここまでの情報なら開示できるなど、より細かく調整できたりもします。

 

吉川さん

上記以外では、発電所まで持ってきたものに関して不具合の水平展開のため海外の工場で再点検した上で設置した経験がありました。

 

3  サプライチェーン維持強化の取り組み

 

西垣さん

サプライチェーンの維持強化について、再稼働やその後の長期運転に向けた取り組みがあればお伺いしたいです。

 

吉川さん

再稼働に関連した女川2号機特有のトピックを紹介したいと思います。女川2号機の大型ポンプの震災後の点検結果を踏まえて、基準値内ではあったものの再製作して取り替えるということをしました。これはポンプメーカーにとっては久しぶりの「ものづくり」の機会になり技術継承になったと聞いています。

 

志和屋さん

プラント稼働時と長期停止時の定検を比較すると、工事量が減っているということを聞いており、定検に関連する協力会社さんと各社の状況、必要な対応についてコミュニケーションを取っています。その中で、どの工事がいつ発生するのか把握できず、人繰りなどの計画が難しいなどのご意見を伺っており、可能な限り、早く工事の計画を共有できるようにしています。関係各社と情報を共有して連携を取って進めていくのが重要だと思います。

 

西垣さん

サプライヤさんに対する期待もお伺いしたいですがいかがでしょうか。

 

平原さん

事業者としては安全・安定運転が一番大きな目標です。そうすると、サプライヤさんに対しては、やはりきちんとしたものを出していただきたい、というのが期待するところになります。一方でサプライヤさんの技術継承なども考えると、事業者としても仕事の量を増やさないといけないというのは認識しています。

 

樂山さん

二次請けの企業さんと話す機会がよくあるのですが、現場OJTの形で人材育成している印象があり、一方で以前とは違って工事量は減少傾向なため、人材育成については今一度考えていただきたいと思って期待していますし、一緒に考えているところでもあります。
例えば、できるだけ若い方にも入っていただきながら、機器導入の目的・背景や設備設計の説明、不具合対応における是正処置内容について一緒に話し合ったりしてみるなど、そういった環境づくりをし始めているところです。

 

4  国内サプライヤからの声に対して

 

西垣さん

原子力特有のルールがサプライヤさんの負担になっているということがあります。これについてご意見をお伺いできればと思います。

 

平原さん

品質マネジメントシステム(QMS)関連、例えば書類の保管や検査対応などが非常に多くなっていてそこが負担になっているのかなとは思っています。
例えば、設備の重要度によって簡略化するなど合理化ができれば…と思ったりはしていますが、そう簡単ではないというのもまた本音ではあります。事業者としては、そういった点を理解していただけるよう働きかけをしていくしかないですね。

 

志和屋さん

平原さんと概ね同じ考えです。原子力事業にQMSは必要で、特に必要になるのは重要度やリスクの高い設備であり、そこはきちんと継続していく必要はあると思います。
一方で、重要度の高くない設備であれば簡略化ができるのかもしれないと思っています。例えば新規制基準の可搬SA設備では、規制上も一般産業品の規格基準を満たせば良いことになっていますので、そういった検査実績を蓄積させて、一般産業品がまた別の機器にも広がっていけば良いかと思っています。

 

吉川さん

新規制基準になって検査行為が厳密になってきているなかで、どうグレーデッドアプローチの考えを持ち込んでいくのかが難しいですよね。

 

5  供給途絶対策について

 

西垣さん

供給途絶対策として一般産業用工業品の採用(CGD)や付加製造技術(AM:Additive Manufacturing)、予備品の活用といったものがありますが、こういった取り組みに対してどのような印象をお持ちでしょうか。

 

志和屋さん

部品・消耗品の調達期間が長納期化しており、定期検査を計画通りに進めていくためにも、予備品の枠組み拡大や早期発注の取り組みを進める必要があるという問題意識はあります。
なお、予備品の発注は、受注の先取りの一面もあるのでサプライヤさんへの効果は限定的ではないかとも感じます。どのような形態がサプライヤさんにとって好ましいのかというのは、実際にサプライヤさんに聞いてやってみないといけないと感じています。

 

吉川さん

私も、定検で使うような資機材が長納期化しているというのはプラントメーカーさんから聞いています。そういった観点から予告発注のようなものも必要だと考えていますが、東北電力の場合、再稼働するプラントは当面は女川2号機の1プラントのみであり、発注の均平化というのは課題になります。
長納期品の調達などについて電力間で「アライアンス」のようなうまい仕組みができればいいのかもしれないです。

 

平原さん

九州電力では再稼働したプラントが4基ありますが、サプライヤさんの目線に立って発注の平坦化等を考えるところまで至っていないです。サプライヤさんとのコミュニケーションを更に深めないといけない、と今の話を聞いて感じました。
予備品に関しては、保管場所や保管状態も考慮する必要があり、数を多く持っていればいいという話ではないというところがあります。同じ型式のプラントで一定数を持つという仕組みを作るというのも考えられるかもしれないですね。

 

樂山さん

故障発生時の対応の迅速化という観点から、一部のメーカーさんと部品の融通調査をやっています。何かトラブルがあった際に、柏崎刈羽1~7号機の中で似たような部品がないかといった、部品の融通調査を事前に行い、その部品を交換する施工要領も備えておくことで、トラブル時のスピード感が大きく異なると思っています。
東京電力の予備品保有量は比べたことがないため一概には言えませんがそんなに多くないと思っており、6・7号機の再稼働の動きから、まずは等発電所内で融通できる部品の特定を行い、その上で必要な部品は予備品化していこうとしています。
また、他電力と比べ部品のリスト化が遅れていると感じており、まずは部品のリスト化、データベース への落とし込みを行ってから、予備品が網羅的に確保できているか検証しようという動きもあります。その上で更にどういった購入方法がいいのか、どういった契約の仕組みができるかということを考えていきたいと思っているところです。

 

平原さん

予備品に関しては安全上のグレードを設けて、震災前(社内業務要領上は昭和58年ごろ)からやっていました。ただし最近は状況が変わってきておりまして、長納期のため、次の定検ではなくさらに次の定検分の発注をしないといけないというケースもありますね。
仮にトラブルが発生してそういった長納期の部品が急に必要になるリスクを考えると、個人的には、ある程度の予備品を持った方がいいという思いはあります。

 

志和屋さん

長納期になりそうなものを予備品として持つというのはありますが、一方で、例えば同じOリングでも型番が全然違うといったこともあり、それを事業者で共通的に保有するというのは課題があると感じます。

 

吉川さん

予備品は必要最低限の数量とすることが従来からの考えとしてあります。
一方で、米国ではプラント1基分くらいの予備品を持っておいて、定検を3週間で終わらせるために予備品と入れ替えるというのがあり、米国と日本ではそもそもの考え方が違います。
入替方式にすることによって定検期間の短縮を図るという取組は震災前から行なっていましたが、さらに解釈を拡大して、いかなることがあってもプラント運転を万全に期すレベルまで予備品を確保しようとなると、場所の問題もありますし、資産として多く持つということにもなり、少し整理が必要だと思います。

 

志和屋さん

サプライヤさんの目線でいくと、例えば機器の材料から製造されるそれぞれの型番が異なるといったことも考えられるため、製品ではなく材料の保管をするといったことがあると良いのかもしれないですね。
電力会社としても、工事の際に必要な資機材を協力会社の方で持っておいてもらえると助かりますが、一方で、サプライヤさんとしてはいつ工事があるかわからないとリスクになるというのもあります。それを支援する仕組みがあるといいのかもしれないです。

 

吉川さん

CGDに関しては、機械品よりも電源盤といった電気品の方が検査の観点からやりやすいと思っています。
機械品のポンプや熱交換器は40年くらい使用されますが、電源盤であれば15年ほどで更新になり製品のライフサイクルが短いですし。

 

6 今後必要な取り組み

 

西垣さん

原子力サプライチェーンをこれから維持していくため、人材育成など、今後必要だと思われる取り組みについて、ご意見をお伺いできればと思います。また、電力事業者の視点から、政府の取り組みに対するご意見などもあればぜひお願いします。

 

平原さん

事業の予見性の観点では、電力事業者にとってもサプライヤさんにとっても、エネルギー基本計画での原子力の位置付けがどうなるのかが重要なのではないかと思います。新設なのか増設なのか、現在リプレースに限定しているものが緩和され、方向性が示されると事業者としては動きやすいのかなという印象です。

 

志和屋さん

まずは「コミュニケーション」が大事だと考えています。事業者とサプライヤさんで、お互いが何を考えているかを伝えていかないといけないと感じています。
サプライヤさんからすると、原子力の将来性が見込まれないならば手を引くことになってしまうので、そこを、サプライヤさんが「やっていこう」と思えるように政府から発信していただけると良いのかなと思います。その「やっていこう」を実現するためにどうすればいいのか、というもう1歩先のコミュニケーションができてくると、業界全体としてどうしていくか考えて取り組めるのではないかと思います。
今はサプライヤさんの中でも「原子力は撤退方針」というところもあるので、政府、そして我々電力事業者含め全体でどうにか取り組んでいかなくてはと考えているところです。

 

平原さん

文科省主導のANECでも人材教育に取り組んでいると思いますが、電力事業者でも原子力志望者が減ってしまっているというところがあるので、そういった教育の面から活性化できるような取り組みを期待したいところです。
震災後の原子力に対するネガティブなイメージを払拭できる、人材の先細りを脱却できる取り組みが求められているのではないかなと思います。

 

吉川さん

人材の観点では、高齢化、技術継承に関する問題が挙げられていますが、やはりそのためには若い人が入ってこないといけないと思います。サプライヤ・事業者という垣根を越えて、学生の原子力産業への関心を高める必要があると思います。
原子力産業はフロントエンド、バックエンド、新増設と広い裾野の中でいろいろなところにやりがいがあるという全体的なところの説明はやはり政府・国側からしていただければよいのではないかと思います。また、今までは機械や電気など専門的な人材が多かったですが、これからは例えばDX分野のスキルを持った人も原子力業界で輝けると思ったりもします。
事業者の立場から新増設や革新炉の話は難しいですが、メーカーなどから話をしてもらえれば興味を持って聞く学生もいるのではないかと思います。新増設も重要な事業ですが、今取り組んでいる再稼働、運転保守の重要性も事業者として学生に訴求できれば良いと考えます。

 

樂山さん

学生への訴求は大事ですよね。
最近、水素関連の部署に異動になりましたが、そこで聞くのは、データセンターをはじめとした電力需要増や再エネによる出力変動にも鑑みて、調整力となる蓄電池や揚水式水力発電に次ぐエネルギー貯蔵方法として原子力による水素製造が求められたりしているそうです。原子力は再エネや水素とも繋がりがあるといった重要性、新しい価値をアピールしていくのも良いのかもしれません。

 

7 今後の新増設について

 

西垣さん

壮大な話しで言いにくいところもあるかもしれませんが、今後の新増設について、できればサプライチェーンの視点も絡めながら、ご意見をお伺いできればと思います。

 

吉川さん

学生の関心という意味でも「新増設」は一つのテーマだと思います。あくまでも個人的な意見ですが、原子力発電所の建設リードタイムを考えると、既設プラントの運転継続でも原子力発電容量が低下すると言われている2040年代に間に合わせるためには、新増設の検討も始めないといけない時期に来ているのかなと思います。
また、革新炉設置の際には、プラントメーカーの研究開発、設計の基準適合性確認といったところに着手しないといけないと感じてはいます。
先ほど大型ポンプの話もしましたが、点検や保守だけではどうしても継承できない「ものづくり」の技術を維持していくためにも、大規模な機器製作が行われる新増設が大きな魅力になるのではないかと考えているところです。

 

志和屋さん

私自身、入社が震災前ということもあって、新増設がやりたい、と思って電力会社に入社しました。
ですので、やはり新増設をするとなれば、原子力関係者のモチベーションも上がると思いますし、業界全体で1つの目標に向かっていくなかで、サプライヤさんの維持強化にもつながっていくと思います。

 

樂山さん

私も新増設はやりたい、と思っていますし、サプライヤさんも事業者も、新増設のようなモチベーションの上がる動機付けが必要だと感じています。ただし急に一部の事業者が新増設する方針を示すのは難しいと思いますので、例えば、電力事業者全体で子会社を設立し合同でやっていくのも良いのかなと思っています。

 

平原さん

みなさんの仰っているとおりですが、私は元々、新設プラントを作ると思って入社しましたし、それが何よりのモチベーションでした。新設案件があると、サプライチェーン、人手の観点にも良く作用していくのではと思います。
国際的には、COP28での「原子力3倍」宣言にも日本の経験や技術が活かされていくはずですので、そういう面でも、新増設が必要なのではないかなと感じています。

 

西垣さん

みなさん、本日は貴重なお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。今後の日本の原子力業界の活性化のためには、電力事業者とサプライヤさんたちをはじめとする関係者によるコミュニケーションが重要だということが印象に残りました。業界全体でのコミュニケーションをNSCPも含め積極的に取り組んでいけば、皆で良い方向に少しずつ進んでいけるように感じております。
改めて本日はありがとうございました。

 

座談会の様子